2021.03.24

盃つまんで Vol.02

昨年(2020)の新酒鑑評会地域別入賞は、新潟(39)、福島・長野(各33)、兵庫(24)、秋田(21)と続く。
必ずしもこの数字がすべてとは思わないが、かつて入賞が少ないことに危機感をもった福島県酒造組合は、1992年に、それまで門外不出だった杜氏の技を共有しあう取り組みを始めて質が向上。やがて7年連続入賞トップとなり、不動の信用を得るようになった。私は、今の福島酒の育ての親でもある会津の居酒屋「籠太」主人が、これと思うものをずっと送ってくださり、福島酒の優秀さは、はやくから教わっていた。

今注目は私の地元・信州長野だ。松本の居酒屋に通ううちに信州酒のうまさに気づき、それではと、長野市に住む酒好きのいとこに、長野県産酒だけを扱う「地酒屋宮島」を教えられ、一升瓶5本ずつ各種を4回注文し、信州酒の水準の高さを知った。特徴は、①アルプス伏流水による水の味がきれい、②甘酸バランスが清潔でクリア、③ゆえに新酒生酒がすばらしいが、熟成させても淡麗さは消えず、やや加わる苦味が重厚につながる。これは今の日本酒に求められる好みそのものだ。
三月の注文は〈豊香 純吟無濾過オリガラミ〉〈黒澤・豊饒感謝祭〉〈ともぞう(裏澤の花)純米無濾過生原〉〈勢起・純米金紋錦〉〈勢正宗・純吟シルバーカープ〉の5本。
飲むといとこに感想をメール。例えば〈黒澤=派手さはなく、きりりと一本筋の通った若い青年剣士のような男酒〉〈ともぞう=生らしい甘酸の調和よく、原酒とは思えない柔らかさは驚き。口当たりは若い女性の風呂上がり柔肌のよう。定番候補〉、などと笑われている。気に入り定番を一本挙げるのなら、ラベルもすばらしい〈勢正宗〉だ。
これを居酒屋で、「お、勢正宗、よく手に入ったね」「太田さんこそよく知ってますね」と互いに自慢し合うのが半可通のタノシミ(ただし勢正宗を置いている居酒屋はまだ知らない)。

名酒の産地は秋田、福島、新潟、長野。私は、秋田酒は秋田「まるひこ酒店」、新潟酒は「早福酒食品店」、長野酒は「宮島」から取り寄せている。注文は、銘柄指定もよいが、はじめは、好み(例えば、きれいな味)を言っておまかせにし、送料節約のため4~5本をまとめ注文する。すると好きなのができて次はこれを入れて、と楽しみが増える。どんなに稀少品でも一升瓶1本3000円を超えることはなく、5本注文しておよそ15000円。これがずらりと並んだ豪勢さよ。よい酒を飲むコツは、よい酒屋と懇意になること。ちなみに挙げた三店はとても丁寧、よろしければ「太田の紹介」と言ってください。