2020.04.22

盃つまんで Vol.01

コロナ禍で、居酒屋はほんとうに大変だ。私のテレビ番組も局の要請で、地方や外ロケはまだできない。今続けている「がんばれ居酒屋」シリーズは、苦境の居酒屋をなんとか応援したいと始めた。
しかし店もがんばっている。ただ休んでいても仕方がないと、店内を徹底的に大掃除する、懸案だった厨房やトイレを工事して最新清潔に替える。私のなじみの大阪の何軒かは、この際、移転して模様替えと前向きで、いずれ番組でそこを訪ねるのが楽しみだ。

時短営業を余儀なくされても客の絶えない店はある。それは常連の多い店だ。これだけ世話になったのだから、苦境のときこそ顔をだし、お金をおとす。これが本物の常連だ。飲めればどこでもいいと入るようなチェーン店はそのとき選ばれない。
これは、居酒屋が自分の居場所として、なくてはならない所になっていた証左だ。居酒屋とはそういうものだ。コロナ禍はそれをいやというほど認識させた。一方、店にとっては「お客とはありがたいものだ」をこれほど実感したことはないだろう。暖簾を出せばあたりまえのように来てくれていた客のありがたさ。「お客様は神様です」と。

番組「ふらり旅 いい酒いい肴」は、2013年3月「倉敷編」でスタート。以降毎月2本を新作として、18年3月「阿佐ケ谷編」まで5年・120回続いた。つまり全国120の土地の居酒屋を、1回2軒として、のべ240軒訪ねたことになる。
多ければ良いというものではない。他の類似番組とちがって(ここからは自慢です)1時間あり、その地の風土・歴史・産物・人情をたっぷり取材し、それが居酒屋にどう反映されているかを探る「居酒屋民俗学」のつもりだ。客と「カンパーイ」とやって、飲み食いしているだけとはわけがちがう。店の主人・女将からどういう話を聞き出せるかが肝心だ(たまに酔っぱらってしまいますが)。
「ふらり旅 いい酒いい肴」は18年3月に終了したが、直後から局に抗議メールが殺到。半年後にタイトルを「新・居酒屋百選」と変えて、同年10月「五島編」から再開、今に続いている。このときほど視聴者のありがたさが身にしみたことはなかった。届いた再開要望のお便り、5~600通は、プリントアウトしてもらって全部読んだ。涙が出た。
まさに「視聴者は神様」。休業を余儀なくされた居酒屋の心情が、本当にわかったのだ。