2021.04.26

盃つまんで Vol.04

若い頃からアートディレクターとしてテレビ番組に参加する機会はよくあった。
「愛川欽也の探検レストラン」では、ラーメン激戦区荻窪に埋もれたラーメン店をリニューアルする回に、店「佐久信」のロゴマークやちらしを制作。中央本線・小淵沢駅に新名物駅弁を作る回では、懇意の第一線コピーライター、イラストレーターらと組み、山本益博氏監修の二段弁当を制作。駅弁名「元気甲斐」を、なんと黒澤明監督の大作時代劇「乱」の題字を書いた重鎮書家、今井凌雪氏に依頼。奈良のお宅へうかがいその揮毫臨書も画面におさめた。先頃、残しておいたその原本を、発売元「丸政」に送ると、「家宝にします」と礼状をいただいた。
「元気甲斐」は大当たりして名物駅弁に定着、今や新宿伊勢丹でも売られる。この間ひさしぶりに購入、安西水丸氏が描いたイラストも、味も全く変わらずおいしかった。

それらの経験から番組のコツをいくつか学んだ。中味が繰り返しに耐える構成でなければならないのはもちろんだが、特徴づける「型」が大切と提案。オープニングはテレビカメラに向かって写真をパチリして「太田和彦です」と始める。この延長として話の段落替えに「太田写真館」を挿入。このとき写真を縱位置にしたのは、横位置は本編映像と変わらないので、左右に空きをつくりスチール写真感を強くした。
最後はオマケ、現地で購入した「戦利品」を見せる。数百円程度の土地の名物がよいけれど、例えば東京の日暮里、荻窪あたりはあまり名物は聞かない。そこで何にしたかは番組をご覧ください。
これらは毎回パターンだが、たまに遊びで不思議なコーナーが登場するのも飽きさせない工夫だ。続けているのが「酔いどれ劇場」。ここばかりは私が脚本を書き、撮影を指揮し、自ら演ずるワンマンコーナー。
盛岡では上京して作家を目指す石川啄木を演じ、弘前では「書けん!」と原稿を破り捨てる太宰治、浜松では世界のトランペッターを目指して練習に打込む青年、熱海の海岸ではお宮を蹴り飛ばす貫一、人形町ではすれちがった若芸者に請求書を渡される遊び人、大船では演出に入れ込んでひっくりかえる映画監督、深川では自分の居酒屋の繁盛祈願に手を合わす若夫婦、上野の居酒屋では青森から上京して夢破れた娘に一杯注いで元気づける主人、谷中では一人娘の婚約をしみじみ喜ぶ、妻を亡くした初老紳士を小津安二郎タッチで……。
横浜港では、ながい海外航路を終えて下船した白制服の船員が、出迎えた恋人から、自分は結婚したと告げられ、黙って背を向ける。この「背中の演技」が大切と、一回目のリハーサルでは後ろ姿をながく保ち、やや肩をふるわすなどタメた演技をして、もういいかな、さあ本番と振り返ると、すでにスタッフはカメラをしまってロケバスに歩いていた。
今回もやるぞと言うと「またですか」という顔をされる。20本くらいあるはずだから、毎回登場する美人もお約束だし、年末に総集編をと申し込んでいるが無視されている。みなさん応援してください。